ねこのことわざ(2)

◆「猫も杓子も」

なにもかも、だれもかれも、の意。すぐに右へならえして流行に翻弄される日本人の国民性もあってか、今でも良く使われる言い回しだ。
生まれては死ぬるなりけりおしなべて
        釈迦も達磨も猫も杓子も
と一休禅師の歌にも見えるこの言い回し、鎌倉時代の末頃にはすでに使われていたようだ。それにしてもなぜ猫と杓子(水や汁ものやご飯などをすくうしゃもじ)なのだろう?語源にはさまざまな説がある。
「猫のちょっかい杓子に似たればかく言ふなるべし」とは江戸時代の学者の説
「女子(めこ)も弱子(じゃくし)も」(=「女も子供も」)の意だとするのは落語「横丁の隠居」の説
このほか、「禰宜(ねぎ)も釈氏(しゃくし)も」(=「神も仏も」)が変化したとする説、「寝子(ねこ)も赤子(せきし)も」(=「寝ている子供も赤子も」)が変化したとする説等々がある。また、杓子は家庭の主婦をさし、猫まで動員した家族総出の意味だとする説もある。
「猫も杓子も」の語源と関わりがあるかどうかは分からないが、猫が死ぬとその亡骸を三叉路の道ばたに埋め、杓子など台所のものを立てるという風習が18世紀以前からあったようだ。鼠が台所を荒らすのを防いでくれたことに対する感謝の意を込めて、台所の物を立てたという。また三叉路は人通りが多いので、少しでも多くの人に拝んでもらうためだとか。

◆「猫ばば」

悪事を隠して知らん顔すること、特に拾った物をひそかに自分の物にすることの意。猫には迷惑千万なこの言い回し、近世に入ってから使われるようになったらしい。
語源には2通りの説がある。
一つは「猫+糞(ばば)」とする説。猫がふんをした後、後足で土をかけて隠す習性があることから生じたというものだ。
もう一つは「猫+婆(ばば)」とする説。伝説によると、徳川時代の中期、江戸は本所にたいそう猫を可愛がっていた老婆がいたという。医者の祖母であったこの老婆は、30匹もの猫を飼っており、猫専用の部屋をあてがい、猫専用女中まで置いて猫の世話をさせ、大切に育てていた。ところが、この老婆にはとんでもない性癖があった。単なるもの忘れのせいか、承知の上での欲張りのせいか定かではないが、人から物をもらっても決して返礼せず、届け物を頼まれても自分の懐に入れてしまうというのだ。以来、いつからともなく「人の物を横取りする」といった場合に「猫婆」と言われるようになったという。
現在では、「猫+糞」を語源とする説が有力視されている。

◆「猫被り」(猫を被る)

本性を隠して表面おとなしそうに振る舞うこと。また、知っているのに知らない素振りをすること。
語源には2通りの説がある。
一つは、猫のようにうわべだけ柔和にする意という説。猫をうわべだけ柔和で内心は貪欲だったり陰険だったりするものと捉えた表現には『猫根性』とか、『借りてきた猫』などがあるが、猫にとってはありがたくない言い回しだ。
もう一つは、ねこ(わら縄を編んだむしろ)を被る意とする説。愛猫家としてはこちらを推したいところだが…。
ちなみに英語では a wolf (fox) in lamb’s skin (sheep’s clothing) となり、我らが猫は無罪放免となっている。

◆「猫に小判」

どんな貴重なものでも、どんな高価なものでも、その価値のわからない者に与えては、何の役にも立たないという喩え。確かに猫に小判を投げてやっても、匂いを嗅いで、前足で砂をかける仕草をするのがせいぜいかもしれない。一方で、小判、大判を抱えた招き猫は、実に自然に見えるから不思議だ。
同義で、「猫に石仏」「猫に経」という言い回しもある。
また、物の価値がわからないという汚名を着ているのは、猫だけではない。「犬に小判」「犬の銭見たるが如し」「犬に論語」「馬の耳に念仏」「馬に天保銭」「馬の目に銭」「牛に麝香、猫に小判」「豚に真珠」など、身近な動物が槍玉に挙がっている。

◆「猫に木天蓼」

大好物の例え。また、効果てきめんであるという意味にも使う。
確かに猫は木天蓼(マタタビ)が大好きで、日頃つんとすました顔をしている猫も、木天蓼を前にすると、見ているのも恥ずかしくなるような有り様。元気のない時にも、一嗅ぎでパワーアップ。効果絶大だ。
この言い回しは、「猫に木天蓼、お女郎に小判」とつなげることもある。遊女もお金が大好きということだが、日頃本性を現さない代表が猫とお女郎で、それも好物を前にしては相好をくずすということらしい。あるいは「猫」=「お女郎」「遊女」という連想が根深くあることから、ここでも仲良く並べられたのかもしれない。
そもそも「猫」は「芸妓」の異称として使われるし、「猫は傾城(ケイセイ=遊女)の生まれ変わり」とか、逆に「傾城には猫がなる」とか、「猫」と「遊女」は一心同体のような扱われ方をしている。また、「猫の鼻と傾城の心は冷たい」という慣用句もある。
ちなみに「お女郎に小判」の代わりに、「猫に木天蓼、泣く子に乳房」とつなげることもあるようだ。

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